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時々R‐18w
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「良かったですね。松之助さん」
「…ありがとうございます」
事態は無事、収束して。
皆で帰る道すがら、声を掛ければ、松之助が、照れたように、笑う。
薄い薄い、家族との縁が、結ばれたような。
温かな心持に、松之助の口元に、自然、笑みが浮かんだ。
「若だんなも、ありがとうございました」
「…うん」
笑い顔のまま、礼を言えば、一太郎はふいと、視線を逸らしたまま、小さく頷くだけで。
やはり、身体の調子を崩してしまったのかと、佐助と二人、心配に眉根を寄せる。
「若だんな?」
「兄さん、話があるから、少し部屋によってくれるかな?」
覗き込めば有無を言わさず、手を取られて。
部屋に引き込まれ、暇を告げる佐助に、苦笑いで見送られた。
「若だんな、どうしたんですか?お加減でも…」
「どうして兄さんは私に何も言ってくれなかったの」
遮る声は、苛立ちを含んでいて。
一瞬、松之助は言葉に詰まる。
「それは…若だんなにはご迷惑をかけるわけには…」
予想通りの応えに、きゅっと、膝の上で握り締めた拳が、震える。
「言ってくれればいいじゃないっ!私たちだって…兄弟、でしょう?」
さっき、松之助は「兄弟なんだから」と、林太郎に言った。
その言葉が、ずきり、一太郎の胸を刺したことを、松之助は知らない。
「それは…」
言いよどむ松之助の、揺らぐ瞳に、一層、不安になる。
こんな風に、詰るような真似で、松之助を困らせる事しか出来ない己に、苛立つ。
「どうして言ってくれないの?…私がそんなに、頼りない?」
零れた声は、自分でも驚くほど、弱々しくて。
見上げた松之助の眼が、揺れた。
「そんなこと、無い」
「じゃあ…」
くいと、手を引いて。
松之助を、引き寄せる。
抱きすくめた首筋に、顔を埋めながら。
耳元、低く、囁き落とす。
「これからは、決して隠し事をしないで」
耳朶を擽る吐息に、松之助は小さく、身を震わせながら。
それでもはっきりと、頷いてくれた。
「林太郎さんには、…あんな風に言ったけど…」
ぽつり、零す。
己が吐いた言葉を思い出しただけで、つきり、胸が痛んだ。
「私がもっと丈夫な身体でさえ居たら、兄さんをもっと早く、見つけることが出来たのにね」
「そんなこと…!」
驚いた様に目を見開いて。
そんなことは無いと、松之助は言うけれど。
林太郎に投げた言葉は、同時に、己の胸も、刺していた。
苦く、笑う一太郎を、松之助はきゅっと、抱きすくめて。
震える声音で、言葉を紡ぐ。
「そんなこと、言わないでおくれよ。…あたしは、一太郎に逢えて、救われた。こんな風に、幸福な心地を教えてくれたのは、一太郎なんだよ?」
その言葉に、呼び名に。
ほんの少し、胸の不安が、和らぐ気がして。
一太郎は小さく、息を吐く。
その顔にようやっと、少し、笑みが戻った。
「ねえ、兄さん」
「うん?」
思い出すのは、林太郎に向けた、ひどく優しげな兄の眼差し。
浮かべるのは、揶揄するような、笑み。
「私と林太郎さん、どちらが大事?」
「そんなこと…!」
比べられるわけが無いのは、良く承知している。
ただ少し、あの瞬間、確かに交された兄弟の情に、妬ける様な心地がしたのだ。
「だって、私のことはいつまでたっても、皆の前では『若だんな』じゃない」
態と、少し拗ねたように。
上目越しに覗き込めば、松之助の目元に、朱が走る。
困ったように、眉尻を下げて。
見あげてくる眼に、浮かべるのは、少し意地の悪い笑み。
「ね?どっち?」
「………っり、林太郎は、弟で…」
「うん」
「い、ちたろうは…弟で…それから…」
「それから?」
覗きこんだ顔は、今にも泣き出してしまいそうで。
耳まで赤くするその様に、つい、笑みが零れる。
「い、愛しいと、思う、から…だから…全然、違うから、…」
比べられないと、ひどく小さな声で、告げられて。
胸に満ちるのは、ただ、愛しいという喜び。
「好きだよ兄さん」
口付ければ、それはひどく、優しい味がした。
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