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時々R‐18w
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「助けて!」
唐突に、胸に飛び込んできた白金色の小さな塊に、守狐は目を見開く。
咄嗟に、背に庇いながら。
半妖に、姿を変える。
視線を巡らせれば、探すまでも無く、目の前に大きな塊が、落ちてきた。
その、穢れた身に纏うのは、夜目にも白い、妖狐の毛皮。
ぞわりと、全身が総毛立つ。
ぎりと、噛み締めた奥歯が、音を立てる。
脳裏に蘇る、父の躯。
両の眼が、熱い。
気が、高ぶる。
その、高ぶる気を。
皮衣から教わった通り、両の眼に、集中させる。
黄金色の瞳が、闇に光る。
―これは……―
思わず、目を見開く。
金睛が映し出すのは、幾戦もの邪気。
比干に喰われ、殺された者たちが放つ、恨みの邪気。
闇の、塊。
人の形をした、闇。
それが、比干だった。
「おやあ…これはこれは…珍しい…金睛か……」
しわがれた声に、守狐の気が、尖る。
背中で仔狐が、引き連れた悲鳴を、上げた。
「珍しい…珍しいのう……狐が二匹……寄越せや…主らの毛皮…目玉を寄越せ」
ゆっくりと顔を上げた比干と、眼が、合う。
途端。
守狐の黄金色の眼が、見開かれた。
その、黒い顔に、嵌っていたのは、黄金色の、瞳。
守狐と同じ、黄金色の瞳が、自分を睨みつけていた。
「お前…父様の…父様の…!」
声が、震える。
自らの目を、抉り出して。
そこに、父の金睛を、嵌め込んだと言うのか。
穢れた、その顔に。
「父様ぁ…?嗚呼、この狐の仔か…」
言いながら、比干の指が、纏った父の毛皮を、撫でる。
込み上げる憎悪に、吐き気がした。
そんな、守狐を嘲る様に、比干は真黒い口を開いて、嗤う。
耳障りな、笑い声が、夜の闇に響く。
「金睛は役に立ったぞ…わしを葬ふろうとする奴は、一目で分かった。…そこのちびの親どものようにの」
比干の言葉に、背中で小さな妖気が、尖る。
全身の毛を、逆立たせて。
仔狐が、唸る。
その小さな眼は、恨みに塗りつぶされていて。
自分も同じ目をしているのかと、守狐はどこか冷めた頭で、思う。
「決めたよ…」
呟けば、比干の眼が、守狐を捕らえる。
その真黒い顔に、艶然と、笑う。
「もう、殺す」
比干が、動きを見せるより早く。
一足飛びに、距離をつめる。
「――-っ!」
脚払いをかけて、地に転ばせば、守狐の細い足首に、闇色の手指が絡みつく。
どくり、触れられた箇所が、爛れるように痛む。
「小童が…小賢しいわ…」
しわがれた笑い声が、耳に付く。
這い蹲る、その闇に。
守狐の唇がにいこりと、笑む。
「お前は…」
じりじりと、邪気に掌が焼かれるのにも構わずに。
比干の手首を、掴む。
細い手指で、確かに、邪気の奥に流れる脈を、押さえ込んだ。
「金睛の使い方を…知らないね」
金睛に集めた気を、手指に集中させて
。
掴んだ脈に、流し込む。
「な、に…」
比干の眼が、見開かれたまま、固まる。
その顔を、無表情に見下ろして。
未だ守狐の足首を掴んでいた、硬直した手指を、ふり払った。
きつく握りこんでいた筈の手指は、簡単に外れて。
守狐の足元で、比干が、苦しげに息を吐く。
その、身体を爪先で蹴飛ばして。
転がる背から、真白い毛皮を、奪い取る。
父の、毛皮。
一族の誰より美しいそれに、守狐はそっと、目礼して。
「持っていておくれ」
背中で、溢れる妖気の強さに、怯え、蹲っている仔狐を、守るように掛けてやる。
辺りには、覆い隠すことができなくなった、腐臭が満ち始めていて。
「おお、おお…酷い臭いだこと」
鼻先を袂で隠しながら、守狐は大仰に眉を顰めてみせる。
足元の青草が、枯れ始めていた。
「何を…した…」
その問いに、守狐の口角が、耳まで届こうかと言うほどに、吊り上がる。
黄金色の眼が、残酷に笑った。
「金睛はねぇ…邪気や敵意を見抜くだけじゃあ、無いんだよ」
気を込め、相手の脈を通じて、その動きを封じる。
修行を積んだものだけが、会得する妖術。
黄金色の妖光が、守狐を包んでいた。
「痛いだろう」
ぎりぎりと、掴んだ手首に、力を込める。
妖光が、強さを増して。
比干の口から、絶叫が迸った。
守狐の気が、比干の血脈を、掻き毟る。
「や、め……」
しわがれた声に、守狐はわざとらしく、眉根を寄せる。
考え込むように、小首を傾げて見せた。
「おやあ。命乞いかい?可笑しいねぇ」
くつくつと、喉の奥で笑いながら。
両の眼に、更に、気を込める。
黄金色の妖光が、ゆうらり、揺れて。
「ねぇ、いい物を見せてやろうか」
紅蓮の炎が、守狐を包む。
黄金色の瞳の真ん中。
紅蓮の炎が、揺れていた。
「火眼…」
零れるように漏れた、比干の呟きに、守狐が艶然と笑う。
その手がそっと、比干の喉に、最も太い血脈に、触れた。
「流石に良く知ってるねぇ」
どくり、どくり。
脈打つように、両の眼が熱い。
母から受け継いだ、火眼。
その使い方こそが、守狐が白沢から教わったことだった。
「火眼はねぇ…払うんだよ。邪気を」
紅色の眼が、楽しげに笑う。
比干の顔に、初めて、恐怖が走る。
その様に、守狐は満足げに笑う。
守狐の妖気が、指先を伝って。
比干の、頸の血脈に、流れ込んだ。
「―――-っ!」
耳を劈いたのは、声にならぬ悲鳴。
紅蓮の炎が、邪気を焼き尽くす。
比干の身体に囚われていた幾千もの情念が、夜の闇に霧散していく。
身の裡から焼かれる痛みに、比干の身体が、幾度も跳ねた。
「何だ。ただの老いぼれ爺じゃないか」
邪気が、薄らいで。
闇の中から現れたのは、干からびた、小柄な老人。
骨と皮しか無い、貧相な肩を喘がせて。
それでも、恨み深き眼で、守狐を見上げていた。
「嗚呼そうだ。…返してもらわなきゃねぇ」
身動き一つ取れない比干に、守狐は酷く優しく、笑い掛ける。
細く白い指先を、その干からびた頬に伸ばして。
ほんの少し、指先に気を込める。
途端に、形の良い桜色の爪は、鋭く尖って。
ついと、乾ききった肌を撫でるだけで、一筋の赤を、描いた。
「ふふっ面白いねぇ…。こんなになってもまだ、お前には赤い血が流れるんだ」
愉しそうに、幾重にも傷を重ねていく守狐。
苦しげな荒い吐息の下で。
不意に、比干が笑った。
「お前の父は、よう役に立ってくれたわ」
その言葉に、守狐の動きが、止まる。
顔から笑みが、消えた。
その様に、僅かに溜飲を下げた比干が、尚も、言い募る。
「流石は幾千年修行を積んだ妖狐じゃ。…わしの日に日に濃くなる邪気も、よう隠してくれた」
血を吐くような笑い声が、闇に響く。
俯いたまま、身動き一つしない守狐。
ゆうらり、紅蓮の炎が、薄らいで。
溢れていた妖気が、霧散していく。
その様に、比干は勝ち誇ったように、笑った。
「おかげで随分やりやすかったぞ。…この金睛のお陰で、敵も見抜けたしの。妖も好きなだけ殺せた。喰えた。……お前の父のお陰だわの」
父の毛皮を被り、正体を隠し、殺し、喰らった。
悪行の限りに、守狐の父は、使われた。
「何千年修行を積んだ妖狐も、最期は……」
不意に、比干の声が、途切れる。
一息に、紅蓮の炎が、辺りを包む。
顔を上げた守狐の眼は、冷酷な光を、帯びていて。
その指が、爪が、比干の舌を、捕らえた。
「煩い舌だね」
一瞬、短い気合を掛けて。
守狐の爪に、火が灯る。
それはそのまま、比干の舌に、焼け移って。
喉を焼く熱に、声すら漏れず、比干がのたうつ。
「安心しなよ。狐火は使い手の思うものしか焼かない。…だから、命までは取らないよ」
焼かれ続ける煉獄を味わえと。
笑みすら浮かべず、そう言って。
守狐はついと、伸びた爪を、比干の眼窩に伸ばす。
「返してもらうよ」
ずぷり、指を眼窩に差し込んで。
父の眼に絡む、比干の血脈を、管を、引き千切る。
激痛に、比干の手足が、幾度も跳ねた。
けれど、金睛の術に縛られているから。
抵抗など、出来るはずも無く。
両の眼を、取り返すことは容易かった。
狐火に喉を焼かれ、声は、出ない。
両の眼も、抉り取られて。
最早その意思すら、伝えることが出来なくなったやせ細った老人を、無表情に見下ろす、守狐。
その、掌に、黄金色の小さな珠を、大事そうに包み込んで。
爪先で、枯れ枝のような、比干の手指を、踏みにじる。
「もう二度と、悪事を重ねないようにしてやろうね」
抑揚無く呟きながら。
ぽきり、ぽきりと。
まるで本当に枯れ枝を折るように、比干の指を、踏み折って行く。
声無き悲鳴が、焼け爛れた喉から迸り、夜を揺らす。
一際、鈍い音を立てて。
大腿の骨を、踏み折る頃には、比干はもう、例え金睛の術を解いたとしても、二度と立ち上がる事などできぬ様になっていた。
「疾…っ」
短く、気合いを込めて。
最後に、比干の身体全体に、狐火を放つ。
「百年、焼かれろ」
そう、小さく呟いて。
比干の額に、符録を描く。
途端に。
青白い炎に包まれた比干の身体は、異界へと、消えた。
その身を魂魄ごと、封じ込めたのだ。
「………」
後に残されたのは、何事も無かったかのような、静寂。
涼やかな夜風が、守狐の真白い髪を、撫でていく。
「父様…」
呟いて。
そっと、掌の金睛を、握り締める。
仇は、討った。
恨みは、晴らした。
それでも。
父が帰ってくるわけでも、母が蘇るわけでも、無い。
当たり前のことと、分かっていたのに。
虚無が、守狐の胸に、去来する。
振り返れば、真白い毛皮に守られるようにして。
強大な妖気に、耐え切れなかったのか、仔狐が、気を失っていた。
「ととさま…かかさま…」
零れるように漏れた、その、幼い声に。
守狐はそっと、眉根を寄せる。
父の毛皮を、肩に羽織って。
仔狐を、腕に抱く。
夫婦の毛皮は、承香殿の女御に、献上されたのだ。
女御はきっと、五万と貢物を貰っているから。
一つ、返してもらっても、構わないだろう。
―――――――
なwwwがwwwいwww
あと少しで終わります^^
しかし守ママ陰薄いwww
PR
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