日記 守狐誕生秘話その13w 忍者ブログ
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「助けて!」

 唐突に、胸に飛び込んできた白金色の小さな塊に、守狐は目を見開く。
 咄嗟に、背に庇いながら。
 半妖に、姿を変える。
 視線を巡らせれば、探すまでも無く、目の前に大きな塊が、落ちてきた。
 その、穢れた身に纏うのは、夜目にも白い、妖狐の毛皮。
 ぞわりと、全身が総毛立つ。
 ぎりと、噛み締めた奥歯が、音を立てる。
 脳裏に蘇る、父の躯。
 両の眼が、熱い。
 気が、高ぶる。
 その、高ぶる気を。
 皮衣から教わった通り、両の眼に、集中させる。
 黄金色の瞳が、闇に光る。
 
―これは……―

 思わず、目を見開く。
 金睛が映し出すのは、幾戦もの邪気。
 比干に喰われ、殺された者たちが放つ、恨みの邪気。
 闇の、塊。
 人の形をした、闇。
 それが、比干だった。

「おやあ…これはこれは…珍しい…金睛か……」

 しわがれた声に、守狐の気が、尖る。
 背中で仔狐が、引き連れた悲鳴を、上げた。

「珍しい…珍しいのう……狐が二匹……寄越せや…主らの毛皮…目玉を寄越せ」

 ゆっくりと顔を上げた比干と、眼が、合う。
 途端。
 守狐の黄金色の眼が、見開かれた。
 その、黒い顔に、嵌っていたのは、黄金色の、瞳。
 守狐と同じ、黄金色の瞳が、自分を睨みつけていた。

「お前…父様の…父様の…!」

 声が、震える。
 自らの目を、抉り出して。
 そこに、父の金睛を、嵌め込んだと言うのか。
 穢れた、その顔に。
 
「父様ぁ…?嗚呼、この狐の仔か…」

 言いながら、比干の指が、纏った父の毛皮を、撫でる。
 込み上げる憎悪に、吐き気がした。
 そんな、守狐を嘲る様に、比干は真黒い口を開いて、嗤う。
 耳障りな、笑い声が、夜の闇に響く。

「金睛は役に立ったぞ…わしを葬ふろうとする奴は、一目で分かった。…そこのちびの親どものようにの」

 比干の言葉に、背中で小さな妖気が、尖る。
 全身の毛を、逆立たせて。
 仔狐が、唸る。
 その小さな眼は、恨みに塗りつぶされていて。
 自分も同じ目をしているのかと、守狐はどこか冷めた頭で、思う。
 
「決めたよ…」

 呟けば、比干の眼が、守狐を捕らえる。
 その真黒い顔に、艶然と、笑う。

「もう、殺す」

 比干が、動きを見せるより早く。
 一足飛びに、距離をつめる。

「――-っ!」

 脚払いをかけて、地に転ばせば、守狐の細い足首に、闇色の手指が絡みつく。
 どくり、触れられた箇所が、爛れるように痛む。

「小童が…小賢しいわ…」

 しわがれた笑い声が、耳に付く。
 這い蹲る、その闇に。
 守狐の唇がにいこりと、笑む。

「お前は…」

 じりじりと、邪気に掌が焼かれるのにも構わずに。
 比干の手首を、掴む。
 細い手指で、確かに、邪気の奥に流れる脈を、押さえ込んだ。

「金睛の使い方を…知らないね」

 金睛に集めた気を、手指に集中させて

 掴んだ脈に、流し込む。

「な、に…」

 比干の眼が、見開かれたまま、固まる。
 その顔を、無表情に見下ろして。
 未だ守狐の足首を掴んでいた、硬直した手指を、ふり払った。
 きつく握りこんでいた筈の手指は、簡単に外れて。
 守狐の足元で、比干が、苦しげに息を吐く。
 その、身体を爪先で蹴飛ばして。
 転がる背から、真白い毛皮を、奪い取る。
 父の、毛皮。
 一族の誰より美しいそれに、守狐はそっと、目礼して。
 
「持っていておくれ」

 背中で、溢れる妖気の強さに、怯え、蹲っている仔狐を、守るように掛けてやる。
 辺りには、覆い隠すことができなくなった、腐臭が満ち始めていて。
 
「おお、おお…酷い臭いだこと」

 鼻先を袂で隠しながら、守狐は大仰に眉を顰めてみせる。
 足元の青草が、枯れ始めていた。 

「何を…した…」

 その問いに、守狐の口角が、耳まで届こうかと言うほどに、吊り上がる。
 黄金色の眼が、残酷に笑った。

「金睛はねぇ…邪気や敵意を見抜くだけじゃあ、無いんだよ」

 気を込め、相手の脈を通じて、その動きを封じる。
 修行を積んだものだけが、会得する妖術。
 黄金色の妖光が、守狐を包んでいた。

「痛いだろう」

 ぎりぎりと、掴んだ手首に、力を込める。
 妖光が、強さを増して。
 比干の口から、絶叫が迸った。
 守狐の気が、比干の血脈を、掻き毟る。
 
「や、め……」

 しわがれた声に、守狐はわざとらしく、眉根を寄せる。
 考え込むように、小首を傾げて見せた。

「おやあ。命乞いかい?可笑しいねぇ」

 くつくつと、喉の奥で笑いながら。
 両の眼に、更に、気を込める。
 黄金色の妖光が、ゆうらり、揺れて。

「ねぇ、いい物を見せてやろうか」

 紅蓮の炎が、守狐を包む。
 黄金色の瞳の真ん中。
 紅蓮の炎が、揺れていた。

「火眼…」

 零れるように漏れた、比干の呟きに、守狐が艶然と笑う。
 その手がそっと、比干の喉に、最も太い血脈に、触れた。

「流石に良く知ってるねぇ」

 どくり、どくり。
 脈打つように、両の眼が熱い。
 母から受け継いだ、火眼。
 その使い方こそが、守狐が白沢から教わったことだった。

「火眼はねぇ…払うんだよ。邪気を」

 紅色の眼が、楽しげに笑う。
 比干の顔に、初めて、恐怖が走る。
 その様に、守狐は満足げに笑う。
 守狐の妖気が、指先を伝って。
 比干の、頸の血脈に、流れ込んだ。

「―――-っ!」

 耳を劈いたのは、声にならぬ悲鳴。
 紅蓮の炎が、邪気を焼き尽くす。
 比干の身体に囚われていた幾千もの情念が、夜の闇に霧散していく。
 身の裡から焼かれる痛みに、比干の身体が、幾度も跳ねた。

「何だ。ただの老いぼれ爺じゃないか」

 邪気が、薄らいで。 
 闇の中から現れたのは、干からびた、小柄な老人。
 骨と皮しか無い、貧相な肩を喘がせて。
 それでも、恨み深き眼で、守狐を見上げていた。

「嗚呼そうだ。…返してもらわなきゃねぇ」

 身動き一つ取れない比干に、守狐は酷く優しく、笑い掛ける。
 細く白い指先を、その干からびた頬に伸ばして。
 ほんの少し、指先に気を込める。
 途端に、形の良い桜色の爪は、鋭く尖って。
 ついと、乾ききった肌を撫でるだけで、一筋の赤を、描いた。

「ふふっ面白いねぇ…。こんなになってもまだ、お前には赤い血が流れるんだ」

 愉しそうに、幾重にも傷を重ねていく守狐。
 苦しげな荒い吐息の下で。
 不意に、比干が笑った。

「お前の父は、よう役に立ってくれたわ」

 その言葉に、守狐の動きが、止まる。
 顔から笑みが、消えた。
 その様に、僅かに溜飲を下げた比干が、尚も、言い募る。

「流石は幾千年修行を積んだ妖狐じゃ。…わしの日に日に濃くなる邪気も、よう隠してくれた」

 血を吐くような笑い声が、闇に響く。
 俯いたまま、身動き一つしない守狐。
 ゆうらり、紅蓮の炎が、薄らいで。
 溢れていた妖気が、霧散していく。
 その様に、比干は勝ち誇ったように、笑った。

「おかげで随分やりやすかったぞ。…この金睛のお陰で、敵も見抜けたしの。妖も好きなだけ殺せた。喰えた。……お前の父のお陰だわの」
 
 父の毛皮を被り、正体を隠し、殺し、喰らった。
 悪行の限りに、守狐の父は、使われた。

「何千年修行を積んだ妖狐も、最期は……」

 不意に、比干の声が、途切れる。
 一息に、紅蓮の炎が、辺りを包む。
 顔を上げた守狐の眼は、冷酷な光を、帯びていて。
 その指が、爪が、比干の舌を、捕らえた。

「煩い舌だね」

 一瞬、短い気合を掛けて。
 守狐の爪に、火が灯る。
 それはそのまま、比干の舌に、焼け移って。
 喉を焼く熱に、声すら漏れず、比干がのたうつ。
 
「安心しなよ。狐火は使い手の思うものしか焼かない。…だから、命までは取らないよ」

 焼かれ続ける煉獄を味わえと。
 笑みすら浮かべず、そう言って。
 守狐はついと、伸びた爪を、比干の眼窩に伸ばす。

「返してもらうよ」

 ずぷり、指を眼窩に差し込んで。
 父の眼に絡む、比干の血脈を、管を、引き千切る。
 激痛に、比干の手足が、幾度も跳ねた。
 けれど、金睛の術に縛られているから。
 抵抗など、出来るはずも無く。
 両の眼を、取り返すことは容易かった。
 狐火に喉を焼かれ、声は、出ない。
 両の眼も、抉り取られて。
 最早その意思すら、伝えることが出来なくなったやせ細った老人を、無表情に見下ろす、守狐。
 その、掌に、黄金色の小さな珠を、大事そうに包み込んで。
 爪先で、枯れ枝のような、比干の手指を、踏みにじる。

「もう二度と、悪事を重ねないようにしてやろうね」

 抑揚無く呟きながら。
 ぽきり、ぽきりと。
 まるで本当に枯れ枝を折るように、比干の指を、踏み折って行く。
 声無き悲鳴が、焼け爛れた喉から迸り、夜を揺らす。
 一際、鈍い音を立てて。
 大腿の骨を、踏み折る頃には、比干はもう、例え金睛の術を解いたとしても、二度と立ち上がる事などできぬ様になっていた。

「疾…っ」

 短く、気合いを込めて。
 最後に、比干の身体全体に、狐火を放つ。

「百年、焼かれろ」

 そう、小さく呟いて。
 比干の額に、符録を描く。
 途端に。
 青白い炎に包まれた比干の身体は、異界へと、消えた。
 その身を魂魄ごと、封じ込めたのだ。

「………」

 後に残されたのは、何事も無かったかのような、静寂。
 涼やかな夜風が、守狐の真白い髪を、撫でていく。

「父様…」

 呟いて。
 そっと、掌の金睛を、握り締める。
 仇は、討った。
 恨みは、晴らした。
 それでも。
 父が帰ってくるわけでも、母が蘇るわけでも、無い。
 当たり前のことと、分かっていたのに。
 虚無が、守狐の胸に、去来する。
 振り返れば、真白い毛皮に守られるようにして。
 強大な妖気に、耐え切れなかったのか、仔狐が、気を失っていた。
 
「ととさま…かかさま…」

 零れるように漏れた、その、幼い声に。
 守狐はそっと、眉根を寄せる。
 父の毛皮を、肩に羽織って。
 仔狐を、腕に抱く。
 夫婦の毛皮は、承香殿の女御に、献上されたのだ。
 女御はきっと、五万と貢物を貰っているから。
 一つ、返してもらっても、構わないだろう。
 



―――――――


なwwwがwwwいwww

あと少しで終わります^^

しかし守ママ陰薄いwww
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