日記 守狐誕生秘話wその10 忍者ブログ
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「――-っ」

 強い、眩暈を感じて。
 思わず、膝を着く。
 膝の下で、柔らかな青草が、潰れる。
 御坊は存分に、妖気を分けてはくれたけど。
 連日連夜の修行で、思いのほか、自分は妖気をすり減らしていたらしい。
 
「当たり前…か…」

 思わず、自嘲的な笑みが、漏れる。
 万治郎が心配するとおり、碌に眠らず、食べず。
 無茶な修行に打ち込んで。
 少しでも多くの事が知り得たくて。
 己よりも歳嵩の妖にばかり、探りを入れてきたのだ。
 身体を重ねるのが手っ取り早いと、己から誘いをかけて。
 交わるのはいいが、誰も彼もが、御坊の様に、気前良く、情報も妖気も、分けてくれるわけではない。
 逆に、老獪な手口で、翻弄され、いつの間にか己の妖気を取られていることも、あった。
 それでも。
 闇雲に修行に打ち込んでいる間は。
 誰ぞと行為に耽っている間は。
 怒りを、哀しみを、忘れることができた。

「父様…」

 ふらり、近づいた泉の畔。
 水面を覗き込めば、月の光の中、黄金色の瞳が、映りこむ。
 父親譲りの、金睛。
 思い出すのは、昏い眼窩。
 必ずや、取り返して見せると、きつくきつく、唇を噛む。
 父さえ、生きていたら。
 母も死なずに済んだのだ。
 握り込んだ手指が、掌に爪を立てる。
 ふと、背後に気配を感じて、振り返る。

「………」

 じっと、こちらを見つめる、琥珀色の瞳と、目が合った。
 白銀の髪が、月の光に、洗われ、流れる。
 同じ、大陸の出だという。
 皮衣が拾ってきた、大妖、白沢。

「此れは、珍しいですね。貴方が此方に帰ってくるなど」

 その眼はいつも、皮衣に向いていて。
 常に傍に在り、守っていると、聞く。
 他の誰とも、関わろうとしないから。
 妖狐たちは、何処か遠巻きに、畏怖の眼差しで、この妖を見つめていたけれど。
 先に一度、怪我をした仔狐を観てもらって以来、守狐は白沢を、何となく気に入っていた。
 偶に、妖の世に帰ってきたと聞けば、用もないのに訪ねて、長居をしても、大して嫌がる°素振りも見せぬから。
 白沢も、守狐のことは、特に嫌ってはいないのだろう。

「顔色が悪いね」

 艶のある、良く通る声で言われ、にやり、守狐は口角を吊り上げる。
 そう言えば、此処は白沢の廟の近くだ。

「白沢殿は、今宵は随分とお暇なようだ」

 その言葉に、白沢の形の良い眉が、ひょいと、上げられる。
 ついと、一足飛びに、近づいて。
 ふうわり、その目の前に、立つ。

「お相手、願えませんか?」

 にいこりと、人好きのする笑みで、白沢の琥珀色の眼を、覗き込む。
 一瞬、訝しげに眉根を寄せたけれど。
 
「外でする趣味は無いよ」

 結局、何も聞かず、それだけ言って。
 くるり、踵を返すその声音に、拒絶の色は無い。
 守狐は誰とも無く、一人、笑みを零して。
 風に流れる白銀の後を、追った。





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