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「仁吉さん、佐助さんが呼んでるよ」
昼過ぎ、客足も捌けて暇になった頃。
急に番頭さんに肩を叩かれた。
見りゃあ、佐助が、随分遠くからこっちを見てる。
此処は生薬の臭いで満ちているから、あの距離が佐助の限界なんだろう。
「何だい?」
若だんなに何かあったかね?
昼餉の折には体調は良さそうだったが…。
咳が出た過熱が出たか…このところ急に冷えたからね。
薬は…
「ちょっと良いか?」
何だ珍しい。
佐助の私事か。
「何だい?珍しいね」
人気のない蔵の前まで来て立ち止まったから。
小首を傾げて促してやりゃあ、珍しく歯切れが悪そうに視線を逸らす。
何だい一体。
「その…昨日の…」
ああ昨日のか。
やっぱり怒ってたのかねぇ?
今日は忙しかったから、朝はお互い顔も見る間もなくお店に出ちまったけど…。
「悪かったと…思ってる。…あの部屋はお前の部屋でもあるのに…」
何だい何だい。
そんなことを気にしてたのかいこいつは。
しおらしく俯いちまってまぁ…滅多に見れないねこんな姿。
こんな寒い中、わざわざそれだけを言いに?
吹きすさぶ風に、今だって身を竦めてるのに?
そんなに気にしてたのかい。
「佐助…」
名前を呼んで、頬に手を添えて。
向けさせた視線は、戸惑うように揺れている。
嗚呼本当に、滅多に見れたもんじゃないよ。
どうしよう。
「したくなっちまった」
「……は?」
何だいその間が抜けた面は。
お前がこんな可愛いことするからだろう。
「ちょ…っ…今回だけだからな」
抱きすくめたら、怒鳴られるかと思ったのに。
予想外の言葉に、思わず固まる。
目を見開く。
えぇっと、つまり…。
「ったく…」
小さく零しながら。
佐助があたしの前に、膝をつく。
つまり…何だ。
「して…くれるのかい?」
「一々訊くな馬鹿」
見下ろした耳介が赤い。
拙い口元が緩む。
あたしだって頬が熱い。
「ん…っ」
一瞬、肌を冷気が撫でたと思ったら。
躊躇無く、あたしの中心に佐助の顔が寄せられる。
「早くしろよ」
「さあ?…どうだろうね」
どうにかこうにか、口角を吊り上げて体裁を保ったが・・・。
正直これは持つ気がしない。
「ん…っ」
いきなり咥えこまれて、体が震える。
お前、それは反則だろう。
下から丁寧に舐め上げられて熱が集まる。
口腔内で容積を増すそれに、佐助が僅かに、眉根を寄せる。
見下ろすその、少し苦しげな表情は、あまりにも扇情的で。
嗚呼拙いそれだけで息が上がっちまうよ。
「んぅ…っ」
「……っ」
きつく上下に扱かれて、ざらついた舌の腹に鈴口を擦られる。
思わず、佐助の肩に置いていた指先に、力が籠った。
「佐、助…」
呼んだ声は、笑っちまうくらい掠れていた。
「これで、…」
「ん…?」
其処で喋らないで貰いたいんだけどねぇ…。
吐息が掛かるのに、妙な感覚になるんだよ。
ちらと見あげてくる、佐助の目元が、赤い。
「仲直り、だからな」
「―――っ」
お前何だいその可愛い台詞は!
照れ隠しみたいに視線を逸らして、佐助は再びあたしを咥え込む。
嗚呼もうあたしの負けだよもう無理だ。
「佐助…っ」
「―――っ」
じゃりと、草履が砂利をかむ耳障りな音が響く。
そのまま、佐助の口腔内に熱を放てば、きつく眉を顰めながら。
それでも、最後まで吸い上げるようにして、飲み込んでくれる。
軽く、咳き込みながら。
立ち上がる佐助の頬に、そっと手を伸ばす。
「大丈夫かい?」
「まぁ…仁吉のだからな」
しれっと言ってくれるね。
口元が緩むじゃないか。
「昨日は…あたしも悪かったね」
「ん…」
視線が絡む。
互いに零す、照れ笑い。
嗚呼全く愛しいね。
「痛…っ!何すんだっ」
「愛情表現だよ」
あんまりにも愛しいから。
抱きすくめて耳を噛んだら怒鳴られた。