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時々R‐18w
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夜半に、ふと物音を聞きつけて。
またか、と思うと同時、どうしたのだろうと、眉根を寄せる。
一度目は、余り気にも留めていなかったけれど。
どうも最近、お店での松之助の表情が、暗い気がして。
どうにも、気になってきて、佐助はそっと、布団から抜け出した。
「松之助さん?」
そうっと、木戸を潜り抜けようとする背に呼びかければ、過剰なほどにびくりと、その背が跳ねる。
「あ、…佐助さん」
驚いて取り落としたらしい、紙入れを拾い上げれば、それは随分と重い。
「こんな時間に、何処に行くんです」
「あ、…は、腹が減って…」
言う、その視線は泳いでいて。
佐助は一層、怪訝そうに眉根を寄せた。
「蕎麦を手繰るには、こいつは随分と多すぎやしませんか?」
下手すぎる嘘に、柔い声音で苦笑すれば、困りきったように眉尻を下げて、見上げてくる眼と、視線が合った。
どうにも、訳ありらしいと感じて。
そっと、その手を引いて、近くの庭石に座らせる。
「一体何があったんです」
問いかけても、松之助は俯くばかりで。
何か困ったことになっているのは、確かなはずなのに。
決して、自分から口を開こうとはせぬ、その頑なな姿勢に、己の主の姿が、重なる。
「全く…似なくてもいいところまで似ているのだから」
困ったように呟けば、松之助がきょとんと、目を見開くから。
苦笑いで、「頑固なところが、若だんなとそっくりだ」といえば、初めて、その顔に笑みが浮かんだ。
「最近の松之助さんは元気が無い。…若だんなも心配しますよ?」
「………。実は……」
松之助は何度か逡巡する素振りを見せたけれど。
大事な一太郎の名に、躊躇いがちに、口を開く。
最初は、手持ちの金を渡した。
弟は、それでは足りぬといった。これっぽっちではとても、足りぬと。
店が焼け建て直し、借金が自分達を苦しめているのだと。
その上、戸惑う松之助に、「なら長崎屋の旦那様に直接頼んでみるよ。…実の子の弟だもの。きっと良くして下さるに違いないよねぇ?」と、笑ったのだ。
それだけは。長崎屋に迷惑を掛けることだけは、避けねばならないから。
長崎屋に来てから今日までこつこつと貯めていた金子を渡そうと。
誰にも気づかれぬよう、夜半、抜け出そうとしていたのだ。
「そうでしたか…。弟さんを思いやるのはお優しいことですがね。…それが弟さんのためにならないのは、松之助さんだって分かるでしょう?」
柔く、諭すように言えば、こくりと一つ、首が縦に揺れる。
俯いた顔は、今にも泣き出してしまいそうで。
佐助はそっと、その手を擦ってやりながら。
松之助からの、言葉を待つ。
「分かって…いました。…けど、自分だけ助かって…あたしは、此処でこんなにも良くして貰っているのに…林太郎のことを…弟のことを、気にも掛けてやれなかった…」
だから、負い目を感じて。
つい、金を渡してしまったと、松之助は言う。
弟と言っても、殆どかかわりの無い縁の薄い存在のはずなのに。
なんとも松之助らしいと、内心で苦笑しながら。
これからどうするか問えば、とりあえず今日は、林太郎が待っているから行くと言う。
金子は渡さず、分かってくれるまで話をすると。
それが良いと、佐助が笑った時。
「佐助…?兄さんもいるの?」
不意に、響いた声に、びくり、松之助の肩が跳ねた。
最も、知られたくない人に声を掛けられて、きゅっと、膝の上で握り締めた手が、緊張に強張る。
「若だんな。どうしたんですこんな刻限に」
「どうしたって…私は厠に行くところだよ。…兄さん?出かけるの?」
「あ…その…」
怪訝そうに小首を傾げる一太郎に見上げられて。
松之助の視線が、揺れる。
「どうしたの。何があったの」
その、瞳にいつもと違う気配を察したのか。
松之助を覗きこむ目は、逃げることを許さなくて。
困りきったように、眉尻を下げる松之助に見上げられて、佐助は小さく、苦笑を漏らす。
「松之助さん、観念するしかないんじゃあないですか?」
「そんな…」
「…どういうこと?」
小首を傾げる一太郎に、戸惑う松之助を他所に、佐助が全てを話してしまう。
そうして、全てを聞いた一太郎は、己も行くと言い出した。
「だ、駄目です。夜も遅いし、お体に触ります」
「そうですよ若だんな。ちゃんと寝て無くては駄目です熱がでますよ寝込みますよ」
佐助も窘める様な視線を投げて、寝間へ戻るよう、その薄い肩に手を掛ける。
けれど、一太郎は頑として動こうとはしない。
パシリ、佐助の手を払い除けると、強い眼で松之助を見上げて、言った。
「兄さん一人じゃあ心配だもの。…どうしても私を置いていくというのなら、私は兄さんが心配で心配で、きっと朝には熱を出しているだろうさ」
その声音は、どこか怒っている風で。
決して、譲る気配を見せない挙句、熱を出すといわれては、頼りの佐助も困り顔で空を睨みつけるしかない。
「仕方ない…。帰ったらすぐに寝るんですよ?」
「佐助さんっ?」
何を言い出すのだと、目を見開く松之助に、佐助が、困ったように笑う。
「仕方ないでしょう。あたしも付いていきます」
己一人で、誰にも迷惑を掛けぬように、事を片付けるつもりだったのに。
随分と大掛かりな話になってしまったと、松之助は一人、戸惑うように眉根を寄せた。
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