日記 佐松 忍者ブログ
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「只今戻りました」

 肩に、頭に。
 降り積もった雪を払いながら、店奥に声を掛ければ、番頭からねぎらいの言葉が、掛けられる。

「うわあ、お前雪だるまじゃないか」

 言いながら、横から伸びてきた手が、肩に頭にと、雪を払うのを、手伝ってくれて。
 僅かに濡れた着物を、手ぬぐいが叩いてくれる。

「すみません」
「大変だったなぁ。こんな時に荷運びなんて」

 手ぬぐいを仕舞う、親しくしてくれる手代に、松之助はただ、苦笑を返す。
 悴んだ指先は、赤く色づいて、痛々しい。
 お店の中でさえ、吐く息は白かった。

「ほら、奥であたまって来なよ」
「でも…」
「良いんですよ。皆何だかんだ理由をつけては奥で火鉢を抱えてるんですから」

 唐突に、割って入ってきた声に、振り返ると苦笑を浮かべる佐助がいて。
 その姿に、慌てて、首筋に手を掛ける。
 解くのは、行きがけに借りた襟巻き。 
 
「ありがとうございました」
 
 差し出せば、まだ松之助の体温が残るそれを、佐助はもう一度広げて。
 ふうわり。
 くるんだのは、松之助の首筋。

「え…?」

 訳が、分からなくて。
 驚いたように自分を見上げる松之助に、佐助は小さく、笑みを零す。

「まだ体が冷えてるでしょう。巻いておくと良い」
「でも…」
「あたしはいいから。…ほら、早く」

 奥へと、半ば強引に背中を押され、返す機会を逸した松之助は、困ったように、眉尻を下げる。
 佐助だって、寒くないわけが無いだろうと、背中を振り返れば、苦笑いを浮かべる顔が、あって。
 きゅっと、不意に冷えた右手を、握りこまれた。
 
「ほら、あたしの手はこんなに温かいでしょう。…だから、今それが必要なのは、松之助さんの方だ」

 包み込む手は、大きく、温かい。
 唐突なそれに、つい、目元が熱くなる。

「すみません…」

 気恥ずかしさに俯けば、不意に、覗き込まれて。
 その顔が、困ったように、笑った。

「こんなもんはね、ありがとうって言って、受け取っときゃあ良いんですよ」
「あ、ありがとうございます…」

 冷えているはずの頬まで、熱い気がする。
 
「どういたしまして」

 控えめに、小さく零した松之助に、佐助は微笑ましいような心地にさせられながら。
 その、少し濡れた髪を、くしゃり、撫でる。
 途端に、戸惑うように見あげてくるのに、笑いながら。

「まぁ、ゆっくり休めばいい」

 そっと、誰ぞが持ち込んだ甘酒を一杯、注いでやった。


 痛いほどに悴んでいた指先は、いつの間にか、じんわりと熱を、取り戻していた。






 
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