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時々R‐18w
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大気が強大な妖気に、震えている。
余りに強すぎるそれに、総身に走る痺れにも似た痛みに、守狐は思わず、眉根を寄せた。
周囲には、堕ちた妖狐が放つ、狐臭が立ち込め、鼻腔を突く。
荒れた地には、大きな狐の躯が二つ。
一つは完全に事切れていたのか、見ている目の前で、大地に溶け消えてしまった。
すぐにそれが、己の父と、その仇だということが、知れた。
けれど、少し、様子がおかしい。
何が、と、考えようとするけれど。
本能が拒絶するように、巧く思考が働かない。
「兄様…っ!」
今よりも少し若い、皮衣の悲鳴が、脳内に響く。
これは皮衣の記憶を通して、見ている画なのだと、気付く。
「何と言うことを…誰が…」
零れるように呟く、皮衣の目の前には、妖狐の躯。
恐らくは、守狐の、父親。
駆け寄る爪先が、冷たく濡れる。
見れば、赤い赤い、大量の血が、大地を染めていて。
目の前の現実を、認識することを、思考が拒絶する。
それでも、記憶の糸は丁寧に、過去を辿り、守狐に見せ付ける。
守狐の父親の。
その身を包んでいた真白い毛皮は、一族の誰より、美しかったと聞く。
けれど、目の前の躯は、赤黒く濡れていて。
真白い、誰より美しかった、その毛皮が。
無惨に、剥がされていた。
妖は死ねば肉体は大地に溶け、魂魄は天に散る。
跡形も無く、消え去るのだ。
その、毛皮がはがれているということは、生きている間に、剥がされたと言うことを、示していて。
生皮を剥れる等、妖狐にとって、これ以上の屈辱は無い。
「こんな…こんなこと…」
息が詰まるほどの哀しみと怒りが、守狐の意識を焦がす。
皮衣が感じているものに、共鳴しているのか。
それとも、己自身が感じているのか。
守狐にも、分からない。
「兄様…」
震える、細い腕で。
そっと、血に塗れた妖狐を、皮衣が抱上げる。
剥き出しにされた歯牙の間から、だらりと垂れた舌が、皮衣の腕を汚す。
その、赤黒く濡れた顔を覗き込んだ途端。
ひゅっと、皮衣の喉が、奇妙な音を、立てた。
「あに…さま…」
これ以上惨い事が、あるのだろうかと、何処かぼんやりとした意識の片隅で、思う。
守狐の眼は、父親そっくりだと、皆が言う。
誰より強い光を宿していた、他の誰も、持ち得ない黄金色の双眸。
己の眼を見る度に、顔を知らぬ、父の姿を重ねていた。
けれど。
抱上げられた、変わり果てた父の顔に。
その、黄金色の眼が、無い。
光を抉り取られた眼窩はただ、底なしの暗闇を、湛えていた。
毛皮を剥がれ、眼を抉り出され。
それは、この上ない、苦痛と、屈辱。
どくり、両の眼が、疼く。
『師妹よ…』
「兄様…!」
不意に、意識のうちに、声が響く。
肉体はもう、大地に消え行こうとしていたから。
魂魄が直接、皮衣の意識に、語りかけていた。
「兄様、誰が…誰がこのような…!」
悲痛な悲痛な、皮衣の声。
頭の内側に響くその声が、何処か遠い。
どくり、眼が疼く。
息が、苦しい。
喘ぐ様に、唇を戦慄かせる。
肺を満たす、父の、血の臭い。
『妻を…吾仔を頼む…』
その魂魄すら、天に散ろうとしているのか。
声は、ひどく弱く、また、身を包んでいた強大な妖気も、薄れ始めていて。
『比干に…気をつけよ…人でも、妖でも無い…』
仇の、名であろうか。
まだ何事か、父は伝えていたけれど。
叫ぶ皮衣の声さえ、もう随分と遠い。
どくり、どくり。
両の眼が、燃える様に熱い。
怒りか、哀しみか。
それとも、憎悪か。
今まで感じたことの無い感情の波に、守狐の意識は、飲み込まれ、途切れた。
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