日記 守狐誕生秘話wその6 忍者ブログ
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 大気が強大な妖気に、震えている。
 余りに強すぎるそれに、総身に走る痺れにも似た痛みに、守狐は思わず、眉根を寄せた。
 周囲には、堕ちた妖狐が放つ、狐臭が立ち込め、鼻腔を突く。
 荒れた地には、大きな狐の躯が二つ。
 一つは完全に事切れていたのか、見ている目の前で、大地に溶け消えてしまった。
 すぐにそれが、己の父と、その仇だということが、知れた。
 けれど、少し、様子がおかしい。
 何が、と、考えようとするけれど。
 本能が拒絶するように、巧く思考が働かない。

「兄様…っ!」

 今よりも少し若い、皮衣の悲鳴が、脳内に響く。
 これは皮衣の記憶を通して、見ている画なのだと、気付く。

「何と言うことを…誰が…」

 零れるように呟く、皮衣の目の前には、妖狐の躯。
 恐らくは、守狐の、父親。
 駆け寄る爪先が、冷たく濡れる。
 見れば、赤い赤い、大量の血が、大地を染めていて。
 目の前の現実を、認識することを、思考が拒絶する。
 それでも、記憶の糸は丁寧に、過去を辿り、守狐に見せ付ける。
 守狐の父親の。
 その身を包んでいた真白い毛皮は、一族の誰より、美しかったと聞く。
 けれど、目の前の躯は、赤黒く濡れていて。
 真白い、誰より美しかった、その毛皮が。
 無惨に、剥がされていた。
 妖は死ねば肉体は大地に溶け、魂魄は天に散る。
 跡形も無く、消え去るのだ。 
 その、毛皮がはがれているということは、生きている間に、剥がされたと言うことを、示していて。
 生皮を剥れる等、妖狐にとって、これ以上の屈辱は無い。

「こんな…こんなこと…」

 息が詰まるほどの哀しみと怒りが、守狐の意識を焦がす。
 皮衣が感じているものに、共鳴しているのか。
 それとも、己自身が感じているのか。
 守狐にも、分からない。

「兄様…」

 震える、細い腕で。
 そっと、血に塗れた妖狐を、皮衣が抱上げる。
 剥き出しにされた歯牙の間から、だらりと垂れた舌が、皮衣の腕を汚す。
 その、赤黒く濡れた顔を覗き込んだ途端。
 ひゅっと、皮衣の喉が、奇妙な音を、立てた。
    
「あに…さま…」

 これ以上惨い事が、あるのだろうかと、何処かぼんやりとした意識の片隅で、思う。

 守狐の眼は、父親そっくりだと、皆が言う。 
 誰より強い光を宿していた、他の誰も、持ち得ない黄金色の双眸。
 己の眼を見る度に、顔を知らぬ、父の姿を重ねていた。
 けれど。
 抱上げられた、変わり果てた父の顔に。
 その、黄金色の眼が、無い。
 光を抉り取られた眼窩はただ、底なしの暗闇を、湛えていた。
 毛皮を剥がれ、眼を抉り出され。
 それは、この上ない、苦痛と、屈辱。
 どくり、両の眼が、疼く。

『師妹よ…』
「兄様…!」

 不意に、意識のうちに、声が響く。
 肉体はもう、大地に消え行こうとしていたから。
 魂魄が直接、皮衣の意識に、語りかけていた。

「兄様、誰が…誰がこのような…!」

 悲痛な悲痛な、皮衣の声。
 頭の内側に響くその声が、何処か遠い。  
 どくり、眼が疼く。
 息が、苦しい。
 喘ぐ様に、唇を戦慄かせる。
 肺を満たす、父の、血の臭い。

『妻を…吾仔を頼む…』

 その魂魄すら、天に散ろうとしているのか。
 声は、ひどく弱く、また、身を包んでいた強大な妖気も、薄れ始めていて。
 
『比干に…気をつけよ…人でも、妖でも無い…』

 仇の、名であろうか。
 まだ何事か、父は伝えていたけれど。
 叫ぶ皮衣の声さえ、もう随分と遠い。
 どくり、どくり。
 両の眼が、燃える様に熱い。 
 怒りか、哀しみか。
 それとも、憎悪か。
 今まで感じたことの無い感情の波に、守狐の意識は、飲み込まれ、途切れた。


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